プライド
大使館襲撃は世界的にも絶対にやってはならないことです。
在イランのサウジ大使館にどれだけの機密書類があったか。たとえ民衆が自発的に大使館を襲撃したとしても(有り得ませんが)、鎮圧に当たったイラン治安当局がそれらを持ち帰ったのは明らかです。それを狙ってイラン当局がやらせた!とサウジに抗議されてもどう繕いようもありません。
サウジが国交断絶で済ませただけ冷静だったと評価すべきです。それこそ、在サウジのイラン大使の身柄を拘束してもおかしくないほどのことなのですから。
しかし、サウジとイランの対立は何百年と続くものです。これまで国交があったとはいえ、決して仲が良かったわけではありません。それでもイラン王政時代はまだマシだったのですが、1979年イラン革命以降、サウジはイランに対する警戒を強めたり少し緩和したりの繰り返しで、今回のことで緊張が少々強くなったという程度。
「サウジ政府がシーア派の反政府分子を処刑した」
これがサウジの法律であるならば、国際社会が非難するのは内政干渉に当たります。
しかし、イランで起きたサウジ大使館襲撃は言い訳のしようもない国際法違反です。そもそもシーア派宗教者といってもイラン人ではなく、サウジ人です。イランが騒ぐほうが怪しくないですか?
どう考えても悪いのはイランなので、謝罪する以外に解決方法はありません。
でも、怪しげな「中東評論家」「元中東駐在員」が煽るような事態にはなりません。
イランはせっかくアメリカや欧州連合に認められて商売を始めるところなので、ここは穏便に済ませるだろう、と楽観視できます。
なお、日本のマスコミが戦争云々と煽っている理由は、「戦争になったら自衛隊は出て行くのか? やっぱり安倍は悪いワンワン!」と現政権を叩きたいからでしょう。
***---***---***---***---***---***---***
ここ半年の気になる動きはこちら。
15年7月 | 六ヶ国協議により、イランが国際社会に認められる。 |
15年9月 | ロシアが本格的な対イスラム国作戦を発表 |
15年11月 | UAEアブダビにイスラエルが外交代表部を設置すると発表 |
16年1月 | サウジとイラン、国交断絶 |
では、サウジ目線で、これらの行間を読んでみましょう。
7月以降:イランをよく思わないサウジアラビアは、イスラエルと同じように六ヶ国協議に反対していたのですが、アメリカの対イスラム国作戦に期待して、一旦は認めました。
ところが、アメリカは対イスラム国作戦には力を入れず何も進展していません。
9月以降:そんな折に、ロシアが「シリア政権支援・イスラム国撲滅」を決行し、イスラエルに情報提供と支援を求めると発表しました。ここで、「アメリカは対イスラム国作戦を何もしていない」ということが露呈します。
これでは、サウジがイラン規制緩和に賛成した意味がありません。
11月以降:サウジは、アメリカ経由でイスラエルのモサド情報を得ていましたが、アメリカが機能しない今、何のためにアメリカと手を結ぶ必要があるのか。だったらいっそ、イスラエルから直接買えばいいという結論に達します。
今の中東で、水よりも油よりも貴重なのは情報です。アメリカが取捨選択した英文のモサド情報よりも、イスラエルからアラビア語で情報を買うほうが確実です。
さすがにサウジに事務所を置くわけにはいかない。そこでアブダビの「国際再生可能エネルギー機関」にイスラエル代表を駐在させることになったんでしょう。
その以前は、イスラエルの閣僚が特別に訪問したことはありましたが、UAEで開催される国際大会にイスラエル人選手にビザを発行がされないなど、湾岸諸国の中でリベラルだとはいえ、関係が安定していたとは言えない状況でした。
もっとも両国は、「エネルギー関連の仕事に関与するのみで、それ以外の意味を持たない」と強調していますが。
***---***---***---***---***---***---***
アメリカにしたら、原油供給で中近東が優勢だった時は、サウジとある程度の関係を保っていましたが、今は需要減少傾向。米軍の駐屯地もクウェートなどに移転しており、サウジのご機嫌を伺う必要はどこにもありません。
イスラム国に対する軍事作戦は、平和路線で任期満了したいオバマにとって面白くないことで力を入れたくない。だから、イスラエルが持つIS情報を黙殺し、平和イメージが強いイランの制裁緩和に重きを置いた。サウジが怒るのは当然でしょう。
では、バーレーンがイランと国交断絶したのはなぜか?
今のバーレーン政権がサウジ寄り云々という話もありますが、問題はそうじゃない。
シーア派が圧倒のバーレーンはイラン王政時代から関係が密接で、イスラム革命以降も、経済制裁下のイランに対して積極的に貿易を続けました。小国バーレーンにとっては上得意の顧客、そしてイランにとっては助けてくれる共依存状態だったのです。
ところが、六ヶ国合意でイランに対する世界的な経済制裁が大規模に緩和されたために、バーレーンはこの大顧客を失うことになってしまいます。
バーレーンは怒り心頭、「何十年も助けてやったのに、もう何も売らない!」。
そこに上手いことサウジ問題が起きたので便乗した、というわけ。
***---***---***---***---***---***---***
ともあれ、長引くことはありません。中東ではよくあることです。
サウジは脱石油ビジネスでは完全に出遅れましたが、それでも湾岸の実質上宗主国としてのプライドがあります。この衝突を石油価格便乗云々と断ずるのは、浅はかな考えです。
何も一切考慮せず、六ヶ国合意を推し進めた欧米がバカだった、というだけのこと。
イランがサウジに頭を下げることが出来るか、これがイランが本当に欧米の望むような常識が通じる文明国家になるのか?という試金石となるでしょう。謝るわけないですけど。
それにしても、面白いタイミングで、北朝鮮が水爆実験をしましたね。
「北朝鮮が独自開発した!」って、イランも少なからず関与していますけど。
関連記事:
・イラン革命とは何だったのか?
・安倍首相、イスラエル訪問の目的
・ネタニヤフ首相・米連邦議会演説
・イスラエルとロシア、情報提携
・パンドラの火薬庫
イスラエル 日本人 キブツ