紳士靴で畳・・・稀代の失敗外交
最近の欧州ファッション業界では、「ハイヒールで畳に上がるのがクール」という絵があるらしい。ネットで検索したら、ファッション業界だけではなく、米国と韓国の混血で日本名を名乗る女優が、靴を履いたまま畳の上でポーズを取る写真や、混血のミス日本が、畳の上を靴で上がる写真まであった。
日本文化が分からない人達が、土足で畳を「前衛芸術」として捉えて、自分の作品として発表するのは、個人の自由だ。しかし、ほとんどの日本人が「芸術の分野ではアリなんだろうけど、気持ちのいいものではない」と、受け入れがたい否定的な気持ちを抱くだろう。
たとえば、これ。
イスラエルのセゲブ・モシェというタレント系シェフが作ったデザート。

(Segev MosheのFacebook掲載の動画から引用)
紳士用革靴のオブジェの中はチョコレート、畳のような黒縁のマットに乗っている。
どう見ても異質でグロテスク。靴とチョコという組み合わせも、全く以って意味不明。
テレビの料理番組などによく出演するこのシェフは、「セゲブアート/Segevat」という店のオーナーでもあり、彼の店では、芸術と食の融合と称して、さまざまなオブジェと食べ物を組み合わせたり、派手な盛り付けをすることで有名だ。
でも、この悪趣味な『靴と畳』のデザートが供されたのは、彼のレストランではない。
ここだ。

イスラエル首相官邸。イスラエルと日本の首相夫妻との公式ディナー。

(ニュースサイトWallaより画像引用。中央にいるのがシェフ)
・・・。
初めにネットの新聞記事で写真を目にした時はギョッとした。なんたる非礼!
イスラエル人が無礼なのは百万も承知だが、いくらなんでも一国の首相夫妻を招いた夕食会で、靴の中にデザート、しかも畳の上に? あり得ない!と憤慨する思いだった。
もちろん、この新聞記事の一般読者の書き込みも「靴は悪趣味だ」「彼のレストランは好きだが、いくらなんでも靴は酷い」という否定的なコメントが多かった。
でも次の瞬間、・・・ん? と思った。
このタレント系シェフの芸術的センスがゼロなのは分かる。
しかし、ここは首相官邸の夕食会。彼独自の判断で考えたシェフのお任せアラカルトを提供するのではなく、間違いなく事前に、首相官邸と外務省とで打ち合わせている。
招待客の国の文化風習や個人的な食の好みや酒の趣向などもきちんと調べ、食材を吟味して料理やワインを選び、テーブルセッティングも決める。しかも招待客は安倍夫婦だけ。
『紳士靴&畳』は、頭の悪いシェフがネットで画像検索して「欧州ファッション業界のジャパン風は靴で畳マット!」と創作したお遊びだ。おそらくいくつか提出した試作品のひとつだった。※一部報道で「公邸料理人」と書かれていますが、間違いです。
官邸と外務省の職員は、普通なら「靴にチョコ? バカかお前は!」と却下したはず。たとえ職員がこれを認めても、ホストである首相がダメだといえばダメだ。
しかし、しなかった。「よし、デザートは靴&畳で出せ」と、GOサインを出した。
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通常、政府要人が外国を訪問する時、ホスト国は訪問の申し入れがあった時点で、目的や政治的意図は分かっている。訪問した政府要人が、思いもしかなったことを話し始めることは、まず有り得ない。そして、安倍首相のイスラエル訪問は数ヶ月前から決まっていたことで、急遽の予定変更でも電撃訪問でもない。
日本政府の方針は「パレスチナと仲良くしましょう。入植はやめましょう」の2つ。
それ以外は、日本経済界の要人が同行し、経済関係を推進する、など。いつ誰が来ても同じことだし、2015年の訪問でも似たようなものだった。初めから全て分かっている。
しかし、日本側は、これまでとは違った。
◆首相動静(時事ドットコムより引用)
日 付 | 内 容 |
04/30 | 政府専用機でヨルダンのマルカ国際空港発。 夜、イスラエルのベングリオン国際空港着。エルサレム泊 |
05/01 | パレスチナ自治区のラマッラの議長府で、アッバス議長と会談。 夜、アッバス議長主催の晩餐会。エルサレム泊 |
05/02 | 午前、パレスチナ自治区のエリコの農産加工団地視察。 午後、エルサレムのイスラエル首相府でネタニヤフ首相と会談。 その後、パレスチナ自治区のベツレヘム視察。 夜、エルサレムのイスラエル首相官邸で夕食会。 その後、政府専用機でベングリオン国際空港発。帰国の途に。 |
●到着翌日、安倍首相は早速パレスチナ自治区のラマッラに行き、アッバス議長と会談。
「日本のイスラエル大使館はテルアビブ。パレスチナに無償援助を行う。パレスチナ独立を支援する」とパレスチナにたっぷりのリップサービスをもたらし、アッバス主催の晩餐会。でも、ラマッラには泊まらず、治安の良いエルサレムの最高級ホテルに宿泊。
●翌日、朝食を食べたらいそいそとパレスチナ自治区のエリコ視察。しかも同行記者団とのインタビューはここで行っている。つまり、日本政府主導で「今回の訪問ではパレスチナのことしか報道しない」と指定し、イスラエル訪問に関する質疑の席を一切設けない。
午後、やっとネタニヤフ首相に会うものの、早々に切り上げて自治区ベツレヘムへ。
ようやく夜にエルサレムに戻り、ネタニヤフ首相官邸での夕食会。喰ったら帰る。
「日本のイスラエル大使館はテルアビブ。パレスチナに無償援助を行う。パレスチナ独立を支援する」とパレスチナにたっぷりのリップサービスをもたらし、アッバス主催の晩餐会。でも、ラマッラには泊まらず、治安の良いエルサレムの最高級ホテルに宿泊。
●翌日、朝食を食べたらいそいそとパレスチナ自治区のエリコ視察。しかも同行記者団とのインタビューはここで行っている。つまり、日本政府主導で「今回の訪問ではパレスチナのことしか報道しない」と指定し、イスラエル訪問に関する質疑の席を一切設けない。
午後、やっとネタニヤフ首相に会うものの、早々に切り上げて自治区ベツレヘムへ。
ようやく夜にエルサレムに戻り、ネタニヤフ首相官邸での夕食会。喰ったら帰る。
これでは、イスラエル訪問ではなく、パレスチナ訪問だ。
イスラエル訪問といいながらも、行ったのは首相官邸だけで、イスラエル内の視察も見学も大臣議員との面会もない。イスラエルの大統領にすらも挨拶していない。
そしてネタニヤフに会って言ったのは、「パレスチナと話し合え! 入植反対!」
安倍首相が訪問したいのはイスラエルではなくパレスチナだが、空港はパレスチナにないからベングリオン空港を利用し、エルサレムはセキュリティ万全な宿泊地、ネタニヤフ首相官邸は夕食の場所。
飛行場と宿泊と食事、イスラエルはただそれだけ。ネタニヤフは宿屋の主人か? 来たついでにタダ飯食って帰るってやつ? それとも空港使用料とホテル代を払ったからそれでいいと思っているのか?
一国の大統領や首相が、公式訪問と称して専用機で入国しながら、その国のリーダーを後回しにして、積極的に自治区ばかり訪問するなんて、無礼も甚だしい。
本国政府から、「そんなに自治区がいいならお好きなように。私は忙しいんで会いません。夕食はホテルで勝手に食べればいい」と言われてもおかしくない行為だ。
これを、中国やトルコやロシアやスペインでやったら、間違いなく訪問を断られるだろう。
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食事の最後に出されるデザートは印象に残る。
だから、紳士靴で畳。これは、ネタニヤフ首相から安倍首相への痛烈なメッセージだ。
我々は、日本の首相の訪問を、このくらい快く思っていません

しかもこの置き方、どう見ても安倍夫妻を靴で囲んでいる。
『紳士靴で畳』 土足禁止の畳文化の国に、靴で上がりこまれたらどう思うか。
こんな侮辱的な形のデザートを、夕食会のテーブルで目の前に突きつけられなければ、自分達の行動がどれだけ非礼なのか理解できない日本政府と安倍が悪い。恥でしかない。
それこそ、「多忙なので首相は会えない」と言われたほうがまだマシだっただろう。
今回の日本のイスラエル訪問は、大失敗。世界的に稀な失敗外交だ。
おもてなしの国・日本。
自己流にもてなすことは出来る。でも世界の常識が分からない。

『分家最優先でじっくり訪問。本家は後回し蔑ろにして、帰り際にちょっと座る』
外交でも、企業でも、親戚付き合いでも、絶対にない。世界的にあり得ない。
この世のすべてのものに、順序があり、しきたりがあり、格がある。
誰が何をどう思おうがどんな経緯があろうが、イスラエルとパレスチナでは、イスラエルが本国で、パレスチナはあくまでも自治政府。世界的認識では、格はイスラエルが上。
それを無視して後回しなんて、絶対にやってはいけないことだ。
本社と子会社、本家と分家、母屋と離れ・・・、一般社会でも同じだ。
タブーを犯したから、タブーで返された。そういうこと。

★日本1400年の伝統・ガラパゴス俺様外交(2018/05/18)
…この記事に関していただいたメールへの私からの返事です。
・日本政府、シモンペレスの葬儀で、非礼外交(2016/10/01)
・汚れた畳の処理(2018/05/06)
イスラエル 理由 日本人 キブツ